D€STRU

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〜 D€STRU 〜

彼女に出会えたのは運命

そう思っていたのは僕だけでは無く、ここにいる殆どの人達がそう思っていただろう。

彼女の告別式には世界から100万人のオタクが集結した。

オタクと言っても千差万別で、只々泣く者、別れを惜しみ叫ぶ者、楽曲を熱唱する者、何も言わず遺影を見つめる者、僕は一番後者だと思った。

遺影を眺めていると彼女が歌って踊って笑っていた過去の映像が走馬灯の様に脳裏を駆け巡る。彼女は僕にとって人生の全てだった。彼女に会えたから僕は今生きている。そう言っても過言ではない。

『ありがとう』

〜 D€STRU 〜 EP1

清楚で謙虚で努力家なアイドル。仲間からも慕われアイドル界を牽引する絶対的エース。

世界中から集められたアイドル王座決定戦。王座に輝いたのはチーム『D€STRU』のスーパーエース。誰もが彼女の虜になる。

彼女に憧れ同じチームのオーディションを受けた。5次審査の難関を突破し、晴れて彼女と同じステージに立てる事が本当に嬉しかった。

【彼女と会うまでは】

それはショーケースを控えて練習中の出来事。初ステージを1週間後に控えて私達研究生は最終チェックを重ねていた。この公演は研究生5人で披露するお披露目会。
当然憧れの彼女はこのステージには立たない。急にスタジオ外が騒がしくなったその瞬間、

『お邪魔します』

彼女が目の前に現れた。地下アイドルを目指す指針となった憧れの人との初対面。

天羽蓮アモウレン

〜 D€STRU 〜 EP2

『気にせず続けて』

彼女の登場に動揺する研究生達を見兼ねて天羽蓮アモウレンが声を掛けてスタジオの隅に腰を下ろした。

研究生達が動揺するのは当然。ここにいる全員が天羽蓮アモウレンに少なからず影響されこの世界に入った。
画面越しの彼女以外に会うのは今日が初めてだった。『集中しなきゃ』彼女の前で必死で踊った。
レッスン後一息つくところだった。

『3番』

不意過ぎて自分が呼ばれている事に気付かなかった。確かに貰ったゼッケンは3番。
まさか天羽蓮アモウレンから番号で呼ばれるとは思っていなかった。

『3番、貴女ダンス未経験なの。この中で1番下手糞なのわかってるよね』

冷たい両眼で一瞬こちらを見て溜息混じり目線を戻した。

『ダ、ダンス経験あります!』

椎名シイナくるみは震える声で緊張しながらも天羽蓮アモウレンの目を見て発言した。

『3番、経験あってあのレベルなの?』

今度は一瞬とてこちらを見ない。

『私の名前は椎名シイナくるみ。15歳高校1年生です。3番じゃありません』

ダンスを初めたのは3歳。物心つく前に母に連れられその日のうちにダンススクール入所。
他に取り柄は無いし余り上手とは言えないけどダンスは大好き。
天羽蓮アモウレンに出逢いアイドルになりたいと言う夢と目標が決まった。
オーディションがスタートする1年前からレッスン場に毎日通ってダンススキルを上達させた。

『くるみ?変な名前。来週本番でしょ?このレベルで客から金取る気なのマジ笑えない。3番だけ居残りね』

こうして天羽蓮アモウレンとのワンツーマンレッスンが始まった。

〜 D€STRU 〜 EP3

『だから違うって。そこはさっきこうだって言ったでしょ。本当にセンス無いわね3番!』

大好きな憧れの人から個人レッスンを受けるスペイベよりも大好きな憧れの人から罵声を浴びるスペイベになりそうだ。天羽蓮アモウレンとのレッスンは3時間が経過した。

『3番、何でアイドルになったの?』

唐突な質問だった。汗を拭う椎名シイナくるみはドリンクを飲む手を止めて答えた。

『ダンスが大好きで大好きで。それに天羽蓮アモウレンみたいに誰かを幸せにする存在になりたいって思ったからです。私が生きる幸せを与えて貰ったように』

椎名シイナくるみは恥ずかしそうに言った。

『志しは高いみたいだけど、その(ダンス)レベルはこの世界に五万といるわよ』

無表情で自分の話はスルーした。

『わかってます。自分でも上手だとは思ってません。でも踊るのが大好きだし楽しいしもっと上手になりたいし』

『ふ〜ん。じゃあここで2番になる簡単な方法教えてあげようか』

天羽蓮アモウレンは不敵な笑みで椎名シイナくるみに迫ってきた。

『1番じゃなくて2番ですか?』椎名シイナくるみは不思議そうな顔をした。

『そう2番よ。当然私が1番。3番が2番』

『2番やら3番やらややこしいですよ。ちゃんと名前で呼んで下さい。くるみって名前で』

『めんどくさ~名前覚えるの嫌いなんだよね』

『それに私が2番ですか。絶対無理ですよ』

『簡単よ。私が1番なんだから私を完全コピーすれば良いのよ』

『完全コピー?』

『そうよ。1ヵ月で仕上げるから来週のショーケース欠席ね』

  • 1ヶ月でチームNo.2になる
  • 来週の公演欠席

『無理 ✖︎ 3』

このチームには天羽蓮アモウレンの他にダンスが上手い人は沢山いる。ダンスだけじゃない容姿も完璧歌も上手いそんな人達が集まるのがアイドルグループ、

【 D€STRU 】

それに人生一回きりのデビュー公演を欠席なんて無理✖︎3。

『そんなの無理ですぅ~』

〜 D€STRU 〜 EP4

初日のレッスンは明け方まで続いた。

あれから天羽蓮アモウレンは、アドバイス以外は口を開かず緊張感は継続されていた。

『よし今日はこれであがろう。これ以上やってもキャパオーバーしてるしね。マネージャーには電話しといたから、ここ(施設)で今日から泊まり込みね』

『はぃ。。。』

椎名シイナくるみは驚く事無く、天羽蓮アモウレンの無茶振りにもすっかり慣れてしまっていた。

更衣室でシャワーを終え、スタッフから預かったキーで部屋に入る。大きな溜息をついた瞬間、誰かが部屋にいる事に気付いた。

『どれだけ嫌な事あったらそれだけ大きな溜息出るのよ?』

そこには天羽蓮アモウレンがパジャマ姿で髪を乾かしていた。

『わぁ〜?!蓮さんのパジャマ姿♡生で見られるなんて。スペイベ(スペシャルイベント)発令!!!』

椎名シイナくるみは天羽蓮アモウレンのガチオタでもあった。

『同じ部屋なんて聞いてません♡』

椎名シイナくるみは飼い主からご褒美を与えられた仔犬の様に喜んだ。

『あんたなんかめちゃくちゃ嬉しそうね』

『そりゃ嬉しいですよ。天羽蓮アモウレンとお泊まり出来るなんて世界中の蓮オタが聞いたら発狂しますよ』

『あんたオタクなの?気持ち悪っ!』

『蓮さん!世界中の蓮オタを敵に回す気ですか?』

『あんたがキモいだけ。無駄口叩いてないで早く髪の毛乾かして寝な。仮眠したら練習再開するよ』

『はーい♡』

『キモッ。このオタク野郎!』

『はーい♡』

椎名シイナくるみはこの合宿期間中、天羽蓮アモウレンからの呼び名が「3番」から「オタク」に変わった事は言うまでもない。

〜 D€STRU 〜 EP5

スペイベ二日目。只今の時刻PM5:00。

何故か私はスタジオで踊っている。隣には天羽蓮アモウレン。本当であれば既に会場入りしている時間。私を除くメンバーはお披露目会の最終リハを終えていた。

『あんたが踊る筈だったステージ観せてあげる』

一旦レッスンを止めて大型スクリーンの電源を入れた。

『これが今の実力よ』

研究生6人の歌とダンスは初々しさはあるものの流石『D€STRU』の合格者だけあって皆個性的で6人でもグループを作れるくらい完成度は高かった。

『どう思う?」』

『凄くいいと思います。初ステージでここまで出来るなんて』

椎名シイナくるみは羨ましそうな眼差しをモニターに送った。

『だから駄目なんだよ』

天羽蓮アモウレンが怒っている。またスペイベ発令かと思ったがそんな雰囲気ではなかった。何を間違えたのか時間を逆再生してみたが解らない。

『だから研究生で最下位だって言ってんの!』

椎名シイナくるみは必死で天羽蓮アモウレンの言葉を考察した。

『で、何か感じたの?』

天羽蓮アモウレンがかわ恐い顔で覗き込んできた。

『やっぱスペイベ♡』

『おい真面目にやれキモオタ野郎!』

椎名シイナくるみは慌てて真剣を装い話し出した。

『研究生の6人は凄く頑張ってました。さっきの感想も嘘ではありません。でも・・・よくわからないんですが物足りなさは感じました。個々のレベルは高いんですが悪い言い方をするとバラバラと言うか』

『まあまあの答えね』

『個々の能力が高いは△。あのダンスがMAXなら今すぐ卒業してほしい。バラバラってのは○。個々のレベルがどれだけ高くても意味がない。集団なんだから個の連鎖の価値を生み出せないグループはTHE END。物足りなさってのは◎。研究生にしてはレベルは高い方だけどCoreが足りない』

天羽蓮アモウレンの饒舌はまだ続いた。

〜 D€STRU 〜 EP6

『Coreですか?』

『そうよ。オタクも最初は好みの推しを応援するわ。そして最高のパフォーマンス集団の中にいる推しを愛おしく誇らしく思うの。でもね、いくら可愛くたってパフォーマンス出来ないアイドルなんてそこら辺に山程転がってるし直ぐに乗り換えられるのがオチね。集団を最強にするのが私達Coreよ』

『やっぱりそこに私も含まれてます?』
椎名シイナくるみは困った顔をしたが天羽蓮アモウレンは無視して話を続けた。

『Coreは一部の選ばれし人間しか立つ事を許されない。この【D€STRU】でCoreに選ばれし人間は私を含め三人。一人は「X」神咲芽美カンザキメミ。もう一人は椎名シイナくるみあんたよ』
椎名シイナくるみは余計に頭が混乱した。

『ちょっと待って下さい。【D€STRU】No.3の実力者、神咲芽美カンザキメミさんがCoreなのは理解出ます。でも「Y」廣野花梨ヒロノカリンさんがCoreじゃないのは何故ですか?それに私がCoreなのも理由が解りません』

廣野花梨ヒロノカリンは実力も人気も【D€STRU】No.2に相応しい。でも彼女はCoreに成れないのよ』天羽蓮アモウレンがニヤリと笑った。

『それからCore3人でダントツ最下位は椎名シイナくるみ、あんたよ。まず神咲芽美カンザキメミに勝ちなさい』

神咲芽美カンザキメミさんを超えろって事ですか?絶対無理ですよ!』

『私に勝つより簡単でしょ?』

『その選択肢は駄目ですよ。最強の二択じゃないですか。私にとっては天羽蓮アモウレン神咲芽美カンザキメミさんも憧れで雲の上の存在です』

『じゃあ廣野花梨ヒロノカリンにしたら?』

『駄目です駄目です!廣野花梨ヒロノカリンさんも最強の選択肢じゃないですか!!』

『面倒くさい女。まあ良いわ、どうせこの二人には勝って貰わなきゃならないしどっちが後でも先でも関係ないわ』

天羽蓮アモウレンはスクリーンの電源を切り解いた長い髪を束ね直した。それはレッスン再開を意味する。

〜 D€STRU 〜 EP7

ずっとが天羽蓮アモウレンが言っていた事が気になっていた。
 神咲芽美カンザキメミがCoreで廣野花梨ヒロノカリンはCoreじゃなく私が何故かCore。

 それを察して怒りのゲキが飛ぶ。

『ヤル気あんの?そんな踊り何万回踊っても意味ないから』

『す、すいません』

 必死で無になろうとしたが頭はCoreでいっぱいで明らかに集中出来ていなかった。

 そして二度目の中断が入った。天羽蓮アモウレンは両手を振ってダンスを止めた。

『やめやめやめ。さっきも言ったよ!そんなの何億回やっても意味ないから』

『すぃません』

『Coreの事が頭から離れない?切替が上手なのもアイドルの重要なスキルよ』

『はぃ…』

 冷えたミネラルウォーターが落ち込む椎名シイナくるみの頬を刺激した。

『ありがとうございます』

『そこ座りな!余計なこと言ったみたいね。Coreの事なんてまだ話すタイミングではないけど。ゆっくりあんたが成長するのを待ってたら【D€STRU】が消滅してしまう』そう言って笑った。


私の記憶が正しければ天羽蓮アモウレンが笑ったのはこれが最後だった。

『覚悟して聞いて』

 そう言って天羽蓮アモウレンはCoreについて語り出した。

 1時間が経過した。椎名シイナくるみは溢れ出た涙を拭う事も出来ず天羽蓮アモウレンを見つめていた。

『話はここまで。私の意思受け継いでくれるよね』

『うぅ…はぃ。でもレンさんはどうなるんですか?』

椎名シイナくるみを最強Coreにする為に全力をかける。その後はどうなってもいい』

 そして2ヶ月後、天羽蓮アモウレンは姿を消した。

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